褒めたことは、ずっと覚えている。
一度覚えた「正解」を、何度でも見せてくる。 【ひろしとあんずの気づき帳】
あんずは、褒められたことをよく覚えている。
こちらは、その場の勢いで褒めただけでも、あんずにとっては違うらしい。
前にやったら喜んでもらえた。
だから、またやる。
ティッシュの空き箱を細かくすることも、たぶんその一つだ。
俺が、本気で褒めてしまった
最初にあんずがティッシュの空き箱を細かくした時、俺は怒らなかった。
箱の端を噛み、ビリビリとちぎっていく姿が面白くて、
「すごいね」
と言いながら、頭を撫でまくった。
すると、あんずは喜んでヘソ天になった。
俺もその姿を見て、さらに、
「よく出来たね」
と言いながら、お腹まで撫でまくった。
今になって考えると、かなりしっかり褒めている。
ティッシュの空き箱を細かくしただけなのに、頭を撫でられ、お腹まで撫でられ、「すごいね」「よく出来たね」と言われた。
これで覚えるなというほうが無理だ(笑)
その時の俺は、あんずが喜んでいるのを見て、ただ一緒に喜んでいただけだった。
まさか、これが今後も続く仕事になるとは思っていなかった。
ティッシュの箱を見つけると始まる
それから、あんずはティッシュの空き箱を見つけると、細かくするようになった。
一度だけではない。
新しい空き箱が出ると、またやる。
箱の端から噛み始め、少しずつちぎっていく。食べたいわけではなく、とにかく細かくする。
俺が最初に褒めた時と、同じことをやっているつもりなのだろう。
あんずからすれば、前回きちんと出来たことを、今回もやっているだけだ。
それどころか、何度も繰り返しているので、少しずつ上達しているのかもしれない。
俺には、片づける紙くずが増えているようにしか見えないが……(笑)
しかも、あんずは悪いことをしている顔をしていない。
最後まで細かくすると、どこか満足そうにしている。
たぶん、今回も褒められると思っている。
考えてみれば当然である。
最初に大喜びして、頭とお腹を撫でまくったのは俺だ。
いつの間にか、段ボールまで始めた
対象は、ティッシュの空き箱だけではなかった。
宅配便の段ボールも細かくするようになった。
ティッシュの箱より大きいので、あんずにとっては、こちらのほうがやりがいがあるのかもしれない。
端を噛んで、ちぎって、また噛む。
あんずは黙々と進めていく。
段ボールはどんどん小さくなり、その代わりに、床へ散らばる細かな破片は増えていく。
あんずの仕事が終わる頃には、俺の仕事が出来上がっている(笑)
本人は、自分が散らかしているとは思っていないのだろう。
大きな段ボールを細かくして、俺が片づけやすいようにしているつもりなのかもしれない。
もし、そう思っているなら、完全に余計なお世話である。
ただ、あれだけ最初に褒めた手前、今さら俺も強くは言えない。
「前は褒めたじゃん」
あんずが話せたら、間違いなくそう言われる。
褒められた側は、意外と覚えている
人は、相手を褒めたことを、それほど覚えていない。
俺も、あの時は深く考えていなかった。
あんずが喜んだから撫でた。
ヘソ天になったので、さらにお腹も撫でた。
それだけだった。
でも、褒められたあんずの中には、しっかり残ったようだ。
仕事でも似たようなことはある。
教える側が何気なく言った一言を、教わった側がずっと覚えていることがある。
反対に、こちらは軽い気持ちで言っただけなのに、相手は「これで合っている」と受け取ることもある。
良いところを褒めるのは大事だと思う。
ただ、何を褒めるかは、もう少し考えたほうがいい。
少なくとも、ティッシュの箱を細かくするあんずを、あれほど全力で褒める必要はなかった(笑)
変わったのは、俺の置き場所だった
あんずに、もう細かくするなと説明しても難しい。
前にやった時は、あれだけ喜んでもらえたのだ。
次から急に怒られても、あんずには理由が分からないだろう。
そのため今は、ティッシュの空き箱を、あんずから見えないところに置くようになった。
あんずの癖を直そうとしたわけではない。
俺が置き場所を変えた。
結局、そのほうが早かった。
あんずは、前に褒められたことを繰り返しているだけで、何も間違っていない。
間違えたのは、最初に褒めるものを選ばなかった俺である。
ティッシュの箱を見つければ、あんずは今でもやると思う。
きっと最後まで細かくして、褒められるのを待つ。
だから今日も、空き箱は見えないところへ置いている。
あんずの記憶力と、俺の片づける手間を増やさないために(笑)🐶



